広島地裁 運転停止を却下の不当な仮処分決定

  11月4日、広島地裁(吉岡茂之裁判長)は、伊方原発3号機の運転停止を求めた仮処分について、不当にもこれを却下する決定を下しました。この決定について、元裁判官の樋口英明さんが、次のようなコメントを出されたので、ご紹介します。

樋口英明さん 2019年5月松山での講演会にて

 

樋口英明さんのコメント:

 私が実質的に関与した初めての原発差止め仮処分は、11月4日広島地裁で却下されました。全ての争点について四国電力と主張を闘わせた結果、四国電力は最後の方は反論できずに黙ってしまいました(四国電力は負けを覚悟したはずです)。そこで、私はよほど悪質な裁判官でない限り勝つだろうと思っていたのですが、残念ながらこのような結果となりました。

  四国電力は「マグニチュード9の南海トラフ地震が伊方原発直下で起きたとしても、伊方原発の敷地には181ガルしか到来しない」という非常識な地震動算定を行っていました。

 マグニチュード9の東北地方太平洋沖地震では震央(震源の真上の地表面または海面をいいます)から180キロメートル離れた福島第一原発の解放基盤表面(固い岩盤)において675ガルの地震動が到来しました。四国電力は、マグニチュード9の南海トラフ地震が伊方原発直下で起きても伊方原発敷地の解放基盤表面(固い岩盤)には181ガル(震度5弱相当)しか到来しないとしました。ちなみに、震度5弱とは、棚から物が落ちることがある、希に窓ガラスが割れて落ちることがあるという程度の揺れです。なお、181ガルに合理性がない場合には基準地震動(650ガル)の合理性が失われることについては四国電力も争っていませんでした。

 広島地裁は、住民側の立証責任の軽減を図った伊方最高裁判決を適用せず、具体的危険性の立証責任は全て住民側にあるとしました。南海トラフ地震181ガル問題についても、震源特性・伝播特性・増幅特性等に関する修正補正を加えた後でなければ、伊方原発の岩盤での181ガルと福島第一原発の岩盤での675ガルとを比較して一概に181ガルを不合理だとすることはできないとしました。そして住民側がその補正をせずに181ガルと675ガルを比べているので具体的危険性の立証は不十分だとしたのです。しかしこのようなことは四国電力さえも主張していなかったので実に奇妙な判断といえます。

 住民側は「震源特性・伝播特性・増幅特性等は正確に見極めることはできないので、そもそも最大地震動(基準地震動)は予知予測できない」と主張していたのです。そのような主張をしていた住民側に裁判所は無理難題を押しつけたのです。

 更に、差止めが認められるためには、住民側において、近々基準地震動650ガルを超える地震が発生することを立証しなければならないとしました。およそ地震学者にもできない無理難題を住民側に課しました。

 以上が今回の決定のあらましです。とても承服できる内容ではないので、広島高等裁判所に是正を求めることにしました。 後輩が裁判官としての矜持も人間としての最低限の公平感も持ち合わせていないのを見るのはたいへんつらいのですが、三権の中で頼ることができるのは裁判所しかありません。希望を失わずに頑張っていきたいと思っております。引き続き見守ってくださいますようよろしくお願い致します。

                   樋口英明