伊方原発運転差止訴訟 第31回口頭弁論・報告会

寒風にもめげず笑顔で力強く裁判所へと進む原告・弁護団・支援者ら

 12月13日、松山地方裁判所にて第31回口頭弁論が行われた。全国的な寒波襲来で風も強く吹き付ける日だったが、原告32席、一般傍聴37席となり、この日に第6次訴訟の併合措置がとられた。原告側弁護士の火山の具体的危険性についてのプレゼンテーションを伴う意見陳述、今後出廷を求める証人の採否に関わる弁護団の意見陳述、そして原告1人の意見陳述が行われた。

次回の口頭弁論期日は2023年3月14日(火)14時半に予定されている。

「火山事象に関する具体的危険」 中野宏典弁護士、熱弁をふるう                          

 原発の設置、運用に関わる自然現象として大きな争点となってきた火山事象について、原告側はこれまで本裁判において多くの主張をおこなってきた。これらのまとめとしての今回の準備書面(102)について、30分間にわたる熱のこもったプレゼンテーションを行った。

 争点となっている、巨大噴火の可能性、火砕物密度流の到達可能性、噴火規模・層厚などの論点について、1)原子力規制庁が定めている「火山影響評価ガイド」自身が持つ不合理性、2)被告側(四電)が「火山影響評価ガイド」を伊方原発に適用する際に犯している不合理性、に分けて問題点を明確に整理し、誤りを主張した。

 なお、火山事象に関わるこれまでのほぼ全ての裁判例で「現在の火山学の水準において、噴火の中長期的予測ができないこと」と、「噴火の発生可能性(噴火の時期及び規模)について、相当前の時点(核燃料を冷却したうえで搬出するために必要なリードタイムを確保できる時点)で、相応の精度で把握することは困難であること」を認めている。「火山影響評価ガイドは不合理」、「火山影響評価ガイドは不合理の疑い」と指摘している判例も7例にのぼることが紹介された。

 準備書面102 準備書面(102)

証人の採否に関する弁護団の意見陳述 中川創太弁護団事務局長

 まもなく証人尋問(記事の最後に解説)に入る段階を迎えて、原告側弁護団は学者・専門家などの10名を、四電側は4名を証人として呼ぶことを提案し、進行協議(非公開)で厳しい応酬をしている。四電側は、学者・専門家については他の裁判所での証言調書などで代用可能などとし、小人数の出廷にとどめようとしている。また四電側は、伊方原発と福島事故は無関係と述べて福島事故の被害者の出廷にも反対している。

 このため、原告弁護団は学者・専門家から裁判官が直接の証言を得ることの重要性を指摘し、仮に裁判官に疑問があれば尋問を通じてその解明が容易になる点などを挙げて、出廷の必要性を強調した。また、福島事故の解明は、伊方原発の運転の適否を判断するうえで不可欠である旨も強調した。

中川創太弁護団事務局長(報告集会にて)

原告の意見陳述

「画期的な判決」を信じている 塩川まゆみさん(内子町在住)

 3・11東日本大震災を東京で経験。当時1歳の子どもを抱きしめて家具の少ない和室で震度5の揺れが収まるのを待った。福島第一原発から250キロ離れた東京でさえ放射線量が一時的に大きく上昇し、多くの人が首都圏を脱出。インフラも止まり大都市の脆弱性を痛感。3人の子育てのため、縁もゆかりもなく、たまたまブログで知った内子町への移住を決断した。「なぜ東京からわざわざ伊方原発の近くに移住したか」とよく聞かれるが、日本中が福島の悲痛と苦しみを目撃したあとで、原発が再稼働されるわけがないと信じていた。生業も地域社会もすべて破壊し一家離散を余儀なくさせた原発事故は最大級の人権侵害だ。

 現在、内子町の町会議員として働いている。こんな素敵な町を原発事故で失いたくはない。原発事故は紛れもなく人災であり人の手で止められる。

 岸田内閣は気候変動対策を理由に原発推進政策に転じたが、最終処理の方法さえ不明の放射性廃棄物を続々と産出し続けるのは「最高に前近代的」だ。防衛費増額の報道もあるが、海岸線に並べた原発を攻撃されれば日本の国土も国民も財産も不可逆的に損なわれる。これこそが防衛上の脅威である。

この訴訟で意見陳述をしてきた56人を含む1500人余の原告はもとより、原発・核をやめて命や環境、子々孫々を守りたい人々の想いやその歴史、膨大なパワーと共に、自分はこの場に立っている。ひとりではないと力強く感じる。三権分立のはずが立法府と行政府が本気で国民の基本的人権を守る気がないのが現実だ。せめて裁判所にはこの二権と対峙し、国は私たちの命を守ってくれるのだと安心させてほしい。「画期的な判決」を信じている。

221213塩川まゆみさん意見陳述書

 *塩川まゆみさんの脱原発への熱い想いのこもった感動的な意見陳述を聞いて、傍聴席から思わず大きな拍手が起こり、しばらく続いた。裁判官の制止がなかったことも特記すべきことだった。

画期的な判決を信じていると塩川まゆみさん(報告集会にて)

記者会見・報告集会

 17時前から県美術館講堂で、中川創太弁護士、広島の定者吉人弁護士、原告の塩川まゆみさんが壇上にあがり報告集会が行われた。なお、法廷でプレゼンを行った中野弁護士(山梨弁護士会)と薦田伸夫弁護団長は所用のため参加が叶わなかった。

左から 塩川まゆみさん、中川創太弁護士、定者吉人弁護士

 中川弁護士は当日の口頭弁論について、①被告側がこちらの証人の立証を否定してきたので反論したこと、②被告側は福島事故の被害を、伊方原発とは関係ないと従来から主張しているが、そうではないことを立証するための証人を申請していること、③裁判所の判決で「火山影響評価ガイドは不合理」との指摘が何例も出ているにもかかわらず規制委員会は火山影響ガイドそのものを変更・改訂する不誠実で安易な姿勢を示したこと、また四電にはその火山影響ガイドへの運用に際してさえも不合理な点のあること、④裁判官の任期3年のなかで判決を書いてもらうとなると日程がかなりきついこと、⑤これから証人尋問が始まると口頭弁論は午前午後と連続しての開廷もありうるため、原告・支援者の傍聴への一層の協力が必要になることなどを力説した。

 記者からの、「伊方原発訴訟は多面的に弁論してきているが、そのうちの1点でも認められると原発は止められるのか」との質問に対し、中川弁護士は「その判断そのものが争点」であり、被告は「事故が起こる可能性が立証されてから避難計画」と考えているが、原告側は「避難計画ができていないなら、それで止められる」と主張しているとの解説があった。

 原告の塩川さんは、「過去の原告陳述の中で言い尽くされている。これで原発が止まらない道理はあり得ない。最後に愛は勝つ。愛でなんとか止めたいと思います」と感想を語った。

 定者弁護士から、大分地裁の伊方裁判で芦田譲先生(四電側が出廷を拒んでいるうちの一人)が「伊方に三次元地下探査をせよ」と証言し、反対尋問にも堂々と反論する姿を見聞してきたばかりだ。裁判官にも訴えるものが大きかった。松山地裁でも是非、証言してもらいたいと述べた。

 会場との意見交換のあと、松浦事務局次長が、前回の口頭弁論で、傍聴の抽選に当選しながら入廷しなかった四電関係者が数人いたことについて、何人かが個別に裁判所職員に問合せた結果、今回は、裁判所職員より抽選当選者に注意喚起がなされたことが報告された。

 報告集会は須藤昭男事務局長の「福島を忘れてはいけない。伊方裁判はきっと勝つ」との挨拶で閉会した。

 なお、次回3月14日の口頭弁論では2名の原告意見陳述を予定しているが、最後の意見陳述の機会となる。弁護団は、被告側準備書面(26)(火山問題)と(28)(地震ガイド改正問題)への反論を予定している。

*証人尋問一口メモ

「証人尋問(しょうにんじんもん)」とは、事件の当事者や関係者に対して弁護人、裁判官が直接質問をし、その供述内容を証拠とする証拠調べの手続きのことです。

 証人尋問は、双方の主張が出揃い、争点及び証拠の整理が終わった後に、できる限り集中して行うものとされています。

 ①証人尋問の申出、②証人の採否の決定、③陳述書の作成、④証人の出廷、④証人への人定質問(人違いでないことの確認)、⑤証人の宣誓、⑥証人への尋問(主尋問→反対尋問→補充尋問)という流れで行うのが一般的です。

  主尋問― 原告側の証人であれば原告代理人が証人に対して質問を行うこと

  反対尋問―主尋問に続いて相手方代理人が証人に反対尋問を行うこと

  補充尋問―裁判官が証人を尋問すること