伊方原発をとめる会は、10月6日(日)、コムズ(松山市男女共同参画推進センター)大会議室で、「松山地裁勝訴判決に向けて『最終準備書面』と裁判の争点についての学習会」を開催しました。これは、8月31日に開催予定でしたが 台風10号の影響を考慮して延期したものです。講師は伊方原発をとめる弁護団事務局長の中川創太弁護士。松山市内だけでなく愛媛県内各地、大分、香川、徳島からの参加もあり参加者は80人でした。
今年6月18日、第40回口頭弁論で結審し、来年3月18日に判決言い渡しとなる伊方原発運転差し止め訴訟、勝訴判決のために私たち市民に何ができるか。まずは学びの場を持とうと、この裁判で何が争われていて、原告と被告が、それぞれどういう主張をしているのか、双方の最終準備書面をもとにした学習会です。
和田宰・伊方原発をとめる会事務局次長の「私たちは学び続けて手を緩めないでいきましょう」という開会挨拶のあと、NHK松山放送局の6月18日放映のニュース番組「追及ひめポン 四国電力伊方原発訴訟が結審 判決は来年3月」を上映しました(同番組内で取材を受けた西予市在住の原告、大池ひとみさん提供のDVDから)。
中川弁護士は、弁護団渾身の「最終準備書面」(330ページ)の多岐にわたる論点の中から、証人尋問の成果に基づいて記載されたエッセンスを抜き出した20ページの学習資料を準備されました。
資料冒頭では、「深層防護」に触れています。原発の安全対策として、福島原発事故の教訓から、原子力基本法や原子力災害対策特別措置法で、原子力事業所における深層防護の徹底が規定されました。深層防護の第1から第5の防護レベルのいずれかが欠落し又は不十分である場合には、「社会として受忍し得ない危険」が存在し、「人格権侵害の具体的危険」が存在すると評価すべきだと原告側は主張しています。それに関して、深層防護に関する被告側の主張は破綻していること、複合災害で被曝のリスクを回避できないことを認めていること、福島事故の教訓に関する開き直りとも言える主張をしていることが、被告側の準備書面や被告側証人尋問の中で明らかになったことが説明されました。
また、能登半島地震の凄まじい被害状況について、映像資料を使って、陸路避難、海路避難、屋内退避が不可能であることを示し、伊方原発の立地する佐田岬半島においても現在の避難計画に実効性がないことを明らかにしました。さらに、愛媛県の避難時間シミュレーションには、避難退域時検査場所の通過時間が考慮されていないことを示し、避難計画そのものの不備も明らかになりました。
地震による危険性については、四国電力が中央構造線の断層の傾斜角について南傾斜の可能性を無視、あるいは隠蔽していること、中央構造線について三次元地下探査等の調査を怠っていることも説明されました。
火山の危険性については、被告四電側が過去最大規模の噴火、阿蘇4での火砕流の到達可能性を否定して、リスクを十分に認識していないこと、破局的噴火のリスクが社会通念上容認されているというのは間違いであると示しました。
中川弁護士は、最後に「裁判の結果を待つしかないが、日本は民主主義の国ですから、最後は我々主権者がルールを決めることができると信じて、何が問題なのか、何があるべき姿なのかと、ずっと言い続けることしかないじゃないですか。そのためにきちんとした知識、意見を持つことが大切です。我々が呼んだ専門家証人、学会の権威の方、一流の学者の方たちから聞いた話、その成果を今日はできるだけ話したつもりです。伊方原発があの状態であそこにあることが危険であることを確信しました。その一端をお話できたとすれば幸いです。勉強しながら、たゆまず頑張っていきましょう」と締めくくりました。
会場の参加者から、感想や意見が出されました。
「具体的な説得力あるお話で、勝訴を確信した。一般原告の私たちも何かしなくてはならない。県下全自治体議会に請願を出そう。」
「原子力規制委員会の合格の基準では、事故の想定が低すぎること、本来の深層防護の観点からしたらおかしいことになっている。」
「眠たくなるのを覚悟してきた。今日の話で涙が出るとは思わなかった。能登のことがあって、伊方に通い続けている私たちからすれば、今までの学習会の中で一番身につまされた。こんな良い学習会にしてくださってありがとうございました。」
須藤昭男・とめる会事務局長は、閉会の挨拶で次のように述べました。
「電力会社は国策をバックにしている、強大な国家権力で推進していく。それと闘争しなくてはならない。理論武装しなくてはならない。すばらしい講演をいただいた。これだけの理論を持って私たちは闘っている。何も恐れることはない。一つにまとまっている。会場が一杯になっていて、熱があった。これを持続しなくてはならない。松山地裁で私たちは絶対勝つ。勝つという信念を持たないとダメなんです。そして福島を忘れない。忘れちゃいけない。復興なんてなっていません。一致結束してやっていきましょう」。
四国電力は「最終準備書面」(457ページ)で、「原告らの人格権が侵害される具体的危険が存在する前提として、3号炉において放射性物質が環境中に大量に放出される蓋然性を原告側が主張、立証しなければならない」、「3号炉が地震に対する安全を確保していることについては、原子力規制委員会による確認を受けている。たとえ中央構造線が480キロにわたって動いたとしても、伊方原発に問題は起きない」と勝手な主張をしていることに対して、十分論破できているのではないかと思える中川弁護士のお話でした。
裁判官が福島からの避難者、能登半島での被災者、伊方町の地元住民の不安に思いを寄せ、良心に従って勇気ある差し止め判決を出してくれることを願っています。