
2月5日、18時からコムズ視聴覚室にて、中野宏典弁護士による「最終準備書面(火山)」についてのズームによる講演がありました。
今シーズン最強の寒波到来のなかで、中野弁護士の95枚ものパワーポイント資料を使った熱のこもった解説に、会場とズーム参加を合わせて30人弱が、熱心に耳を傾けました。
これは、昨年10月6日に行った、中川創太伊方原発をとめる弁護団事務局長による「松山地裁勝訴判決に向けて『最終準備書面』と裁判の争点についての学習会」に続く第2弾の「最終準備書面」の学習会でした。
講演内容を以下にまとめました。(2月23日)
中野宏典弁護士による 「最終準備書面(火山)」について
中野弁護士は、最終準備書面(火山)の中で4つのポイントに絞って報告しました。被告の四国電力は、伊方原発への影響を評価する対象火山として阿蘇山と九重山をあげ、原子力規制委員会は、その評価を妥当として、原発の運転を認めてきました。最終準備書面(火山)では、著名な火山学者複数の証言も引用し、被告側の主張を論破しています。
(1) 阿蘇山噴火による火砕流到達の危険
阿蘇山は日本最大級のカルデラ。過去4回の破局的噴火があります。伊方原発の南西約130kmに位置します。
被告は、噴火履歴や周期性などを根拠に、阿蘇で破局的噴火が差し迫っているとはいえないとしましたが、火山学の世界的権威である巽好幸証人は、破局的噴火の周期には誤差が大きすぎ、周期性を将来予測に用いることはできないとしています。さらに、被告は、地下に破局的噴火を引き起こすようなマグマ溜まりはないと評価しますが、巽証人は、現在の地下探査で、地下の状態を精度よく把握することは難しく、ないと思われている場所に、実際にはマグマ溜まりが存在するという可能性がある、したがって、このような評価も妥当ではないとします。

実際に、マグマ溜まりがないと思われていた場所にマグマ溜まりが見つかった例として、鬼界カルデラの研究があります。このような反例がある以上、被告の論拠は崩れているといわざるを得ません。現在の火山学で、破局的噴火が起こらないということはできないとする火山学会の声明も指摘されています。
破壊力の大きな火砕流について、四国電力は伊方原発の敷地には「到達していない」としていますが、テフラ学の第一人者である町田洋証人が共著した1985年の論文には、佐田岬半島で阿蘇4のテフラが確認されたことが記され、法廷で証言されました。しかし、被告は、審査会合でも佐田岬半島で阿蘇4火砕流は見つかっていないとこの事実を隠し、規制委員会も、被告のごまかしを見抜けないまま許可を出しました。最終準備書面(火山)では、火砕物密度流が阿蘇から160km離れた場所に届いていることなどからしても、伊方原発の位置に火砕物密度流が届かなかったとはいえないと指摘しました。

(2) 他の九州カルデラ火山の噴火による危険
敷地に火砕流密度流が届かなくても、九州にはカルデラ噴火を起こした火山が連なっており、これらが大規模な噴火を起こした場合に、被告の想定を超える大量の火山灰が届いた可能性は大いにあります。降灰によって、外部電源は機能喪失し、交通も途絶して、電力の確保が非常に困難になります。そうすると、「止める」ことができても「冷やす」「閉じ込める」ことができずに、深刻な事態が生じかねません。被告は、これらカルデラ噴火の可能性も十分小さいと評価していますが、特に、姶良カルデラと鬼界カルデラの地下にはマグマ溜まりがあると考えられており、噴火の可能性が十分小さいとは到底いえない状況です。

(3) 九重山の噴火による危険
阿蘇の他にもう一つ、被告が評価の対象とした九重山は、伊方原発の西南西約108kmの位置にあります。被告は、「九重第一軽石」と同程度の噴火(噴出量6.2㎦)によって、伊方原発に到達する最大の層厚は15cmであるとしています。中野氏は、宿毛付近で確認されたテフラの状況から、伊方で20cm程度の層厚になり得る可能性を指摘すると同時に、「九重第一軽石」の火山灰が、遠く水月湖(福井県)で発見されたなどといった町田証人の証言から、噴出量が過小に評価されている問題性も指摘しました。

(4) 原子力規制委員会の欺瞞
巨大噴火については、発生頻度が極めて低く、他の法分野で規制がされていないから、それによるリスクは「社会通念上容認できる」などという論理(いわゆる「社会通念論」)に、裁判所が陥っています。
しかし、火山ガイドを策定した当初、検討チームでは、むしろ破局的噴火こそ原発に危険を及ぼすと考え、その規制をどうするかに議論が集中しました。その中で、原発を何とか稼働させたいとの思いから、火山学の水準を見誤り、活動可能性評価には不確実性があるけれども、モニタリングを行うことで破局的噴火の前兆を把握できるという誤解に基づいて、火山ガイドは策定されました。
これに対し、火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長(当時)は、「火山ガイドを見て、巨大噴火が予知できるとする書きぶりに唖然とした」と語り、東大地震研の火山噴火予知研究センターの中田節也教授は、「モニタリングに頼って審査を通そうというガイドになってしまった。原発を動かしたい人の習性が反映された内容。」と批判しています。
このように火山学会からの猛反発を受け、裁判所も、火山ガイドは不合理と判断せざるを得なくなったのですが、それでも原発の差止を認めないために考え出されたのが、「社会通念論」でした。規制委員会は、当初このような考えを持っていなかったにもかかわらず、裁判所の判断に便乗して、当初から、社会通念を前提に、破局的噴火については緩やかな基準で判断することとしていた、と弁解し、火山ガイドを改正してしまいました。
本件では、改正前の火山ガイドに基づいて審査が行われているため、改正前の火山ガイドが、社会通念を前提としていたかが争われるわけですが、上記の経緯に照らせば、火山ガイドが社会通念を前提としていなかったことは明らかです。社会通念論を採用して、破局的噴火のリスクを無視してはならないことを、最終準備書面(火山)では、様々な角度から論証しています。

講演の最後に、中野弁護士は、「総合考慮論」という、裁判所が、「社会通念論」に続いて、近時新たに考え出した不当な論理にも言及しました。これは、それぞれの論拠が信用できなくても(原告のいう問題があるとしても)、複数の論拠を総合しているから、全体として原発の安全は確保されるというものです。しかし、信用できない論拠をいくつ総合したところで、安全は確保されません。このような判決を繰り返していては、裁判に対する国民の信頼は失われる、このような不当な判断がなされないように、判決に注目してほしいと述べました。