伊方原発をとめる弁護団からの報告(5/27集会)

<伊方原発をとめる弁護団からの報告>

              中川創太弁護士(伊方原発をとめる弁護団事務局長)

弁護団の事務局をしております中川です。テレビ放送もありましたが、昨日5月26日、仮処分につきまして新たな書証を松山地裁に提出しました。

今日は、皆さんが今から署名活動をされる際に、どういうふうに県民に語りかけていただきたいか、裁判の中でどんなことが明らかになってきているのか、という観点でお話をします。

伊方原発の基準地震動が今いくらかご存じですか。650ガルと言われています。最初はいくらのガルで建築された原発かご存じですか。もっと低いですね。それが引き上げられて570ガルになって、今650ガルまで上がってきました。

県民の多くの方は、四国電力ですから、安全に万全を期して、基準地震動というのは、考え得る最大の地震を想定してくれているんだと思っているはずです。四国電力のホームページにもそう書いています。それがまったくの事実でないということが、裁判で明らかになっています。そのことをぜひお伝えいただきたいと思います。

考え得る最大の地震動を想定したという主張自体が、そもそもこの裁判の中で四国電力からされていません。「基準に適合した地震動です」ということしか言えていないのです。これをぜひお伝えいただきたい。

この基準地震動の嘘、まやかしについて、広島地裁の決定が出ました(3月30日)。この決定は結論においては不当なものですが、判断の中身においては、いろいろと見るべきことを書いています。ある意味、広島地裁の裁判官は正直です。基準地震動の設定についてどういうふうに判断しているか。いろいろな問題点がありますが、一つだけポイントを絞ってお話をします。

基準地震動の決め方にはいろいろな方法がありますが、一つには、応答スペクトルに基づく基準地震動の決め方というのがあります。過去の様々な地震のデータ、震源からの距離などから経験式を作る。それに当てはめて、中央構造線から距離がこれぐらい離れていて、これぐらいの大きさの地震が起きることが想定されるから、伊方原発ではだいたいこれぐらいの地震になるだろうと、そういうものを定めるものです。

この応答スペクトルの定めをする際に、四国電力は「いろいろな事態を想定して、保守的に基準地震動を定めています」と言うのですが、実際はそんなことまったくないんです。

今650ガルの数値が出てきているのはどういう想定かというと「69キロの長さについて、これが動いた場合、断層の傾斜角度が北側に30度寝かせてある時に650ガルの基準地震動になります。これがいろいろ考えた中での最大だから、これを基準地震動にしました」これが四国電力の説明なんですが、本当はすべての場合なんかまったく想定していないんです。

一番厳しい想定は、480キロについて全てが動いて、その上で、断層の傾斜角度については、北側というのは広島の方に傾斜していることですが、その逆です、南側に傾斜している、そう想定するのが一番厳しくなるわけです。

実は四電は、南傾斜になっているという想定をして、応答スペクトルの計算をしていません。全くしていない。応答スペクトルの計算に対しては、北傾斜か直角か、それだけでしか計算をしていない。南傾斜に基づいて応答スペクトルの計算すらしていない。それで最大だと言っている。おかしくないでしょうか。

その他にもいろんな問題があるのですが、それについて広島地裁の決定は、非常に正直に書いています。南傾斜を考えないということについては「疑問がないとは言えない」。

しかも応答スペクトルの計算の仕方については、「耐専式」という計算の仕方と「その他の距離減衰式」という計算の仕方があって、「その他の距離減衰式」の中にもいろんな式がある、何十もあるんです。「耐専式」というのは、あまりに震源が近すぎるとその式は使ってはいけないという見解もあったりして、四国電力は南傾斜だとまさに伊方原発の直下になるわけですから、近くなるから「耐専式」は使いませんという弁解をしています。

「その他の距離減衰式」については、そんなことなんにもないんです。近くても使っていいんです。それにもかかわらず、南傾斜については「その他の距離減衰式」の適用すらしていない。一切、考えていないんです。それで北傾斜650ガルが最大ですというのが四国電力の説明です。これを許していいのかどうかという問題です。

非常に苦しい判断を広島地裁はされたのかもしれない。非常に疑問がある。率直に言うと、「その他の距離減衰式」すら南傾斜で適用しないというのは、合理性が確認できたとは到底言えない。それでも、結論としては、最終的には保守性が確保されていると考える余地もあるので、稼働を認めますという判断なんです。

こういう表現が、広島地裁決定にはいっぱい出てきます。「一応の合理性がある」、「一定の合理性がある」、「ただちに合理性を欠くとは言えない」、「最終的に保守性を確保していると考える余地もある」、だから四電の安全対策は合理的である。

伊方原発をとめる会のHPに、「甲B第415号証」として広島地裁の決定の全文を掲載していますから、ぜひ読んで下さい。

私から言わせれば、広島地裁決定は何て言っているかというと、

〈伊方原発の安全性は一定の合理性があります。直ちに合理性がないとまでは言えません。基準地震動については、むずかしことはよく分かりませんけれども、最終的には保守性を満たしていると考える余地もあるので、安心できないわけでもありませんから、稼働を認めます。避難計画は規制の対象とはしていませんが、たぶんだいじょうぶです。火山ガイドは不合理です。不合理な内容に基づいての審査しかしておりませんから、審査の過程が適正かどうかは全く分かりませんけれども、結論においてはたぶんだいじょうぶでしょう。だから稼働を認めます。〉

これが広島地裁の決定です。よく読んでみて下さい。まさか、裁判官がそんな決定をしている原発が、今われわれの近くで動いているなんて、愛媛県民の方々は思っていません。

四国電力は、最大の震度を想定してくれて、安全対策は万全にしてくれて、避難計画も何回も何回もやってくれてだいじょうぶだと、思っていらっしゃる方に、ぜひそのことを語りかけていただきたいと思います。

われわれは裁判を通じて、ぜひ稼働を止めたいと思っています。広島高裁の審理も始まります。広島高裁で勝利をしたいと思いますし、松山地裁の仮処分でも勝利をして稼働を止めたいと思っています。ただ裁判ができることは稼働を止めることだけです。裁判によって廃炉にはなりません。裁判によって伊方に山ほど積まれている放射能廃棄物の処理が決まるわけではありません。

原発の問題を子孫に残さない、残さざるを得ませんが、できる限り負担を少ない形で残すための努力というのは、われわれの世代の責務だと私は思います。そうであるとすれば、裁判に加えて、原発の様々な問題点について県民と語って、ぜひ脱原発の方向での県民世論を作っていって、政治的なところでも多数派になっていくということはどうしても必要です。裁判に勝っても高裁があります。最高裁があります。地裁で勝っても、高裁で勝っても、それで結論が出るとか、何かが解決する局面ではありません。

いま日本は民主主義国家なのか独裁国家なのか、よくわからなくなってきています。民主主義国家だったんですよね。民主主義国家であれば、国民が県民が最終的な決定ができるんだということを確信を持って思える日をぜひ迎えたいと思います。頑張りましょう。